NEWS

【起業家インタビュー】誰もが自分らしくいられる世界に FABRIC TOKYO森氏がファッションに込める願い(後編)

<インタビューイー略歴>
森 雄一郎氏
株式会社FABRIC TOKYO 代表取締役CEO
1986年生まれ岡山県出身。大学卒業後、ファッションイベントプロデュース会社にてファッションショー、イベント企画・プロデュースに従事。その後、ベンチャー業界へ転向し、不動産ベンチャー創業期に参画したほか、フリマアプリ「メルカリ」の立ち上げを経て、2014年2月、カスタムオーダーのビジネスウェアブランド「FABRIC TOKYO(旧・LaFabric)」をリリース。”Fit Your Life”をコンセプトに、顧客一人一人の体型に合う1着だけではなく、一人一人のライフスタイルに合う1着の提供に挑戦中。

一人でも多くの人が素晴らしいライフスタイルを歩むことができる世界に。「自分らしさ」を表現することができるファッション分野にて、新しいアイデアとテクノロジーを用いて変化をもたらしている株式会社FABRIC TOKYO。前編では起業に至るまでの経緯や、起業後に起きた苦悩とFABRIC TOKYOで成し遂げたい想いを伺いました。後編は描いた未来へのアプローチと、今よりももっと先の未来に対して何を想い、どのような価値を提供していこうとしているのか。起業家、また一つのブランドを立ち上げた人間としての決意と覚悟に迫っていきます。

※前編はこちら

※株式会社FABRIC TOKYOは地域経済の活性化と県内産業の競争力の向上を図るため、兵庫県や民間企業等と連携し、スタートアップへの投資を目的に組成された「ひょうご神戸スタートアップファンド」から出資を行っております。


先輩起業家によって痛感させられたスケールの違い

-メルカリで様々な体験をされたと思いますが、ご自身の中でどのような変化があったのでしょうか

森:比べることもおこがましいのですが、当時の自分と進太郎さんでは考えている物事のスケールが全然違いました。アプリがリリースされて、SNS広告運用の仕事を与えられたのですが、開始してすぐに、すごく獲得コストが低くて、アプリのダウンロードが取れるチャネルが見つかったんです。とても良い数字が取れたので、進太郎さんにチームで報告へいったのですが、彼が考えていた数字と自分たちが良いと思った数字の桁が2つも違ったんです(笑)「そんな数字じゃ全然ユーザーが増えない、その数字だとプラットフォームとして全然成立しないよ」って。スタートアップの創業期なんて、普通は小さなお金で回して、効果検証してやっていくものだと思うのですが、進太郎さんは違っていて、「一気に攻めろ」という感じでしたね。当時の自分が持っていた意識とは全然レベルが違いましたね。

-それではメルカリでの経験が今の基礎になっているということですね

森:そうですね。進太郎さん自身がシリアルアントレプレナー(連続起業家)ということもあり、プラットフォームのビジネスに対する解像度がとても高かったですし、目指すべき世界のスケールがとても大きい。さらにはそこに対しての登り方も理解していて、スピードが速い。最近よく考えていることとして、スタートアップの唯一の優位性とは「スピード」だと思うのです。大企業だと決裁するまでにかなりの時間を要するものでもスタートアップであれば社長の一声で出来てしまう。事業をしていて迷うことはたくさんあると思うのですが、まったりやっても成功するのか失敗するのかの2択なんです。どうせどちらに転ぶのか分からないのであれば、もうやっちゃえよという話ですね。こういったスケール感やメンタリティの部分はとても参考にしていて、今も社員から様々な提案が来るのですが、もらった提案に対して「どうやったら10倍、100倍にできるかな」というディスカッションは常に行い、すぐに決断するようにしています。

-大学卒業後から自分でサービスを立ち上げつつも、様々な場所で経験を積まれてきたと思いますが、起業後の成功率を高めるために、やはりある程度の知識や経験は必要なのでしょうか

森:私は全く必要ないと思いますね。「起業」というもの自体、きっと学べるものではなくて、やりながら経験していくものだと思っています。もちろん所々失敗例や絶対にやってはいけないことを学ぶことはできるかもしれないですが、成功する方法は学べないじゃないですか。もしそんな方法があったら誰もが成功するはずで、ほとんどの人が失敗するのが「起業」であり、要はマニュアル化できないものだということです。どこかに入って学ぶよりもよっぽど起業してみて色々学んでいく方が早く成功するのではないでしょうか。私がもし人生をやり直すのであれば、15歳くらいで起業すると思います(笑)仮に35歳になったときには20年間も会社経営をしているわけで、経験値は今以上得られると思いますね。何度か会社を潰しているかもしれませんが(笑)


一人のコアユーザーをどれほど幸せにできるのかを追求

-様々な経験をしたメルカリを卒業され、自身の会社に戻られましたが、最初に直面したのはどのような課題だったのでしょうか

森:売れないことですね(笑)ただこの期間はまだプロダクトマーケットフィットの全然手前だと捉えていて、とにかく1年間は正社員を雇わず、様々な事業検証をしていました。正直なところ途中で何度か「辞めようかな、ピボットしないといけないな」と考えることはあったのですが、面白いことに1年続けてやってみるとリピーターが発生するんですよ。数自体はそれほど多くないのですが、強いニーズを持っていて、自分のサービスを欲してくれるユーザーがいる。それであればチャンスがあると思い直し、詳細にお客様データの分析をしてみると小売業界の中でもかなり良い数字のリピート率だったのです。このデータを元に、VCへプレゼンしたところ、大きな可能性を感じてくださり、一流のVCから1億円の出資が決まり、このサービスの必要性とユーザーの大切さを認識しました。

‐創業期の過酷な状況もユーザーによって助けられる部分があったのですね。

森:そうです。ユーザーの反応がいいと辞める気なんか忘れてしまいますね。それにサービスの可能性をずっと感じさせてもらえる。強いニーズを持っているユーザーがめちゃくちゃ喜んでいるという状態を作ることはとても大事で、事業がどのような状況だろうと価値を届ける相手のことを忘れずに運営していくべきだと思います。今思えば、当時はマーケティングもCSも配送も全て自分でやっていましたし、電話もメールも全て自分で対応しており、ユーザーとのタッチポイントがたくさんありました。お金がなくて自分でやるしかないという状態だったのは確かですが、経営者自身がちゃんと手触り感ある状態で事業運営するということ、ユーザーの声を直接聞くことは丁寧にやった方が良いと思っています。

‐現在は事業も軌道に乗っていると思いますが、成長している今感じる課題はありますか

森:今は5年後のFABRIC TOKYOの姿を描いているのですが、今までの経験の通り、とても高い目標設定をしているのでそこに到達するための解像度を上げていくことが課題ですね。事業をするほとんどの方が、何か夢と希望を持っていて、それらを叶えるためのプランとして事業計画を作っていく。しかしながら、大きな目標であればあるほど、現状からのギャップも大きく絵に描いた餅という状態。自分の経営者としての実力を上げていかなければならないですし、組織全体の実力もあげなければならない、さらには事業のポテンシャルも引き上げていかないといけないという状況なのでやることがいっぱいですね。ただ個人的には、5年後について考えられるようになったのは結構最近のことで、良いことであるとも思っています。


「好きなもの」を「好きな時に」着ることが、人生に対する主体性へ第一歩

-現在5年後という未来について色々試案されていると思うのですが、森さんは経営者として自分自身の役割はどのようなものだと認識されているのでしょうか

森:私自身、ブランドオーナーの自覚があるので、これからも細かくブランドについては見ていきたいと思っています。すでに事業運営面に関しては幹部メンバーに任している部分が多いのですが、ここぞという時のユーザーに対するメッセージなどはやはり自分が考えていくべきだと思いますし、自分自身が確認すべきとも思います。世界的に有名なスティーブジョブズもきっとブランドオーナーの認識があると思っていて、細部までものすごく細かくチェックして、ものすごくこだわりを持ってサービスを作っていたと思います。我々のサービスはファッションブランドという側面もあり、ブランドはユーザー・社会とのタッチポイントでもあります。自分たちの作りたいもの・ユーザーが欲しいものを作ることだけでなく、ユーザーに選択肢を提供することもブランドの仕事だと思っています。「こんなライフスタイルがあっても、世の中素敵じゃないですか」という問いをユーザーや社会に示すことがブランドだと思っているので、私が描いているビジョンを常に浸透させていただくためにこの仕事は自分の手でやり抜きたいと思っています。

⁻最後の質問です。今後FABRIC TOKYOとして、どのような価値をユーザー・社会に提供していきたいと考えているのでしょうか

森:我々は「Lifestyle Design for All」というミッションを掲げています。これが何かというと「ライフスタイルをデザインするかのように、主体的に人生を歩める人を増やしたい」という願いを込めています。ファッションをドメインとしている中で主体的なファッションが何かというと自分で作る「オーダーメイド」だと思っています。FABRIC TOKYOを通じて、自分だけのオリジナルの洋服を作る人が増えるということは、主体的に自分が着たい洋服を選ぶことができているということであり、その経験をほかの場面で活かしてもらえると人生において主体的に選択をする機会が増えると思っています。そもそもオーダーメイド自体、自分がこういうものが欲しいと意思がなければ出来ないものなんですよね。ですので、私たちはファッションを起点として「主体的な人生を歩む人を増やしていくこと」が一番の目的となっています。またファッション領域には世の中的に負の部分があるものでもあり、世界でも2番目に地球を汚しているといわれる産業になっています。私はこの状況がものすごく悔しくて、というのも個人的には最初にお話しさせていただいたようにファッションによって救われた部分が非常に大きく、今はこれで生活もさせてもらっており、ものすごく感謝しているのです。だからファッションを社会的にも重要なポジションへもう一度押し上げたいという気持ちがあり、環境や社会に優しい洋服を、人の心に優しい洋服をユーザーに届けられるようになりたいと思っています。人の心に残り、愛着が持てる、人にエネルギーを与えられるサービスを提供できる会社に成長していきたいと考えています。